京都府立医科大学 眼科学教室

講師 森 和彦先生

森 和彦の主たる研究成果と抱負

緑内障の治療には点眼・内服を基本とした内科的療法とレーザーや手術を基本とした外科的療法がある.われわれは現在の緑内障治療における問題点を把握するため,過去10数年にわたってコンピュータによる大規模な患者データ管理を行うとともに,HRT-II,GDxVCC,FD-OCT(トプコン社,RT-Vue社),Pentacam,Visante前眼部OCT,UBM,IOLmaster,Matrix,HRFなどの種々の非侵襲的検査法を駆使し,定期的に視神経乳頭・網膜神経線維層解析,前眼部隅角形状解析,視野解析などの臨床データの蓄積を行い,長期にわたる緑内障の経時的変化の追跡ならびに各種抗緑内障薬の客観的総合的な治療効果判定を行っている.また,正常眼圧緑内障に対する代替療法としての東洋医学的アプローチの可能性を検討するために,関連施設である明治鍼灸大学東洋医学教室と共同で眼血流動態に対する鍼(ハリ)療法の効果を調べている.

外科的療法の分野では,現在の主流となっているマイトマイシンC併用線維柱帯切除術の限界が明らかとなってきたことから,房水流出路である隅角を直接操作する術式の開発を目指して新しい手術用隅角鏡(Mori upright surgical gonio lens, Ocular Instruments Inc.)ならびに隅角癒着解離スパーテルの開発を行っている.また当科においては角膜移植,特に難治性眼表面疾患に対する眼表面再建術が盛んに行われており,これらの症例に緑内障が合併すると難治となりやすいことが明らかとなった.中でも特に難治である眼表面再建術後の緑内障に対しては,羊膜移植併用線維柱帯切除術を開発し,その臨床経過を検討している.

緑内障の規定因子の1つである眼圧は角膜を介して測定する手法が最も一般的である.しかしながら眼表面再建術後や角膜移植後などでは正確な眼圧を測定することが困難となる.また角膜自体の硬性や曲率半径も眼圧に影響する.われわれは眼表面状態の影響を受けない眼圧計の開発を目指し,振動する圧電セラミックスの音響インピーダンス差から硬性を定量的に測定できる触覚センサーを応用した眼圧計を開発,基礎的なデータを得ている.

緑内障は単一遺伝子によるとは限らない多因子疾患である.これまでの候補遺伝子アプローチで発見された緑内障発症原因遺伝子は必ずしも大多数の緑内障の原因遺伝子とは言い難い.すなわち原因遺伝子検索のためには,厳密な疾患背景を持つ臨床サンプルに対して行う全ゲノムアプローチが必要である.われわれはゲノム情報を絡めた緑内障の発症・予後予測診断技術の開発を目的として,京都府立医科大学ゲノム医科学教室と共同で広義原発開放緑内障と健常者を含めた約800例の血液検体について,50万の一塩基多型(SNP)の全ゲノムSNP解析による緑内障関連候補SNPの選別を完了し,特許出願した.また落屑緑内障に関連するLOXL1遺伝子(Science 2007)についてもリシークエンスを行い,報告されたアイスランド人集団と日本人集団でアレル頻度に差があることを見出し,日本人固有のSNP解析が重要であることを確認した.これらの全ゲノムSNP解析によるデータを基に広義原発開放隅角緑内障診断チップを作製し,緑内障診断アルゴリズムの開発からゲノムによる緑内障スクリーニングを目指している.

  • 参考文献

    1. Mori K, Imai K, Matsuda A, Ikeda Y, Naruse S, Hitora-Takeshita H, Nakano M, Taniguchi T, Omi N, Tashiro K, Kinoshita S: LOXL1 genetic polymorphisms are associated with exfoliation glaucoma in the Japanese population. Mol Vision 14: 1037-1040, 2008.

    2. Ikeda Y, Mori K, Naruse S, Ishibashi T, Hozono Y, Ikushima T, Nakajima N, Kinoshita S. Effects of switching from topical beta-blockers to latanoprost on intraocular pressure in patients with normal-tension glaucoma. Journal of Ocular Pharmacology and Therapeutics. 24: 230-234, 2008.

    3. Yoneda K, Nakano M, Mori K, Kinoshita S, Tashiro K. Disease-related quantitation of TGF-beta3 in human aqueous humor. Growth Factors 25: 160-167, 2007.

    4. Mori K, Ikushima T, Ikeda Y, Kinoshita S. Double-Mirror Goniolens With Dual Viewing System for Goniosurgery. Am J Ophthalmol 143: 154-155, 2007.

    5. Ikeda Y, Mori K, Ishibashi T, Naruse S, Nakajima N, Kinoshita S. Latanoprost nonresponders with open-angle glaucoma in the Japanese population. Jpn J Ophthalmol. 50: 153-157, 2006.

    6. Naruse S, Mori K, Kinoshita S. Evaluation of the pressure phosphene tonometer as a self-tonometer. Ophthalmic Physiol Opt 25: 421-428, 2005.