京都府立医科大学 眼科学教室

渡辺 彰英先生 研究

眼形成

渡辺 彰英の主たる研究成果と抱負

 眼科医の中で、眼瞼、眼窩、涙道疾患を扱う専門家は少ない。しかし眼科医となったからには眼球のみならず眼球周囲の疾患も治療できるようになりたい。こういった思いから眼形成を専門とすることを決めた。2003年に大学へ戻ってきたと同時に、荒木美治先生とともに眼形成グループの立ち上げに参加させて頂いた。荒木先生は、日本で唯一眼形成を標榜する科である聖隷浜松病院眼形成眼窩外科で2年間研鑽をつまれ、府立医大へ戻ってこられた。2人で立ち上げた眼形成グループは、眼瞼下垂、内反症などの眼瞼疾患、眼窩骨折、眼窩腫瘍などの眼窩疾患、涙道閉塞や涙道狭窄などの涙道疾患を眼科の立場で治療することからスタートした。2年後には、私自身が聖隷浜松病院で約2年間仕事をさせて頂く機会を得て、部長である嘉鳥信忠先生には眼形成のあらゆる知識・技術を教えていただいた。眼形成は手術治療をメインとする分野であるが、手術治療のみならず、疾患の病態を考え、追求することも大変面白い分野である。

 中でも、眼瞼下垂症は加齢とともに増加し、上眼瞼縁が瞳孔にかぶさり視野が妨げられる疾患であるが、近年、ハードコンタクトレンズの長期装用に伴う眼瞼下垂も増加しており、眼形成外来にも比較的多く紹介があった。これまで、ハードコンタクトレンズによる眼瞼下垂の原因として、コンタクトレンズを外す際に上眼瞼を強く引っ張ることで眼瞼挙筋腱膜が引き伸ばされるからであるとされてきたが、私はそこに少し疑問を抱いた。コンタクトレンズ下垂の患者さんには、経験上強度近視の人が多い。これはコンタクトレンズを外すときの眼瞼への外力によって下垂が起こるのでは説明がつかない。何か他の原因があるのではないかと考えたのである。そこで、挙筋短縮術の際に得られる挙筋腱膜およびミュラー筋を病理組織学的に検討し、加齢による眼瞼下垂では挙筋腱膜とミュラー筋に脂肪変性を多く認めたのに対し、コンタクトレンズによる眼瞼下垂では脂肪変性はほとんどなく、ミュラー筋に著明な線維化を認めた。年齢をほぼ同程度にした比較においても、明らかにコンタクトレンズによる眼瞼下垂の組織はミュラー筋に線維が多い。このことから、ハードコンタクトレンズの長期装用に伴い、結膜側からのコンタクトレンズの刺激(特に強度近視の場合には厚いエッジによる刺激)が、徐々にミュラー筋の線維化を進行させ、ミュラー筋そのものの収縮力の低下、ミュラー筋と結膜、ミュラー筋と挙筋腱膜間の癒着による挙筋の収縮力の伝達低下を招くことが、眼瞼下垂の一因である可能性を示した(文献1)。また、2008年のAmerican Academy of Ophthalmologyにおいて、コンタクトレンズ下垂の重症度と屈折度数は相関することを発表した(文献2)。このように、これまで常識とされてきたことに疑問を持ち、新たな病態や病因について検討することは大変魅力的である。我々は結膜弛緩症についてもこれまで報告されていなかった多数例での病理組織学的検討を行い、結膜弛緩症では、長年の瞬目や眼球運動による機械的刺激に伴い、弾性線維の断裂やリンパ管拡張が引き起こされていることを明らかにした(文献3)。

 現在研究中のテーマとしては、瞬目高速解析装置を用いて自発性瞬目と眼瞼疾患、中枢神経疾患との関連、メニスコメトリーを用いた涙道閉塞に対する手術前後の涙液の定量的評価、手術顕微鏡下所見と組織学的変化からみる眼瞼下垂症の病態解明などがある。また、今後のテーマとして興味を持っているのは、眼窩骨折整復術に培養骨膜シートを用い、現在行っている治療を超える眼球運動改善効果を得ることや、特発性が多いとされる涙道閉塞の病態解明など、眼形成疾患への興味はつきない。

  • 参考文献

    1.Watanabe A, Araki B, Noso K, Kakizaki H, Kinoshita S: Histopathology of blepharoptosis induced by prolonged hard contact lens wear. Am J Ophthalmol, 141(6)1092-1096, 2006

    2.Watanabe A, Wakimasu K, Araki B, Yokoi N. Risk Factors for Ptosis Induced by Long-term Hard Contact Lens Wear. American Academy of Ophthalmology, Atlanta, GA, USA, 2008.11.8.-11.

    3.Watanabe A, Yokoi N, Kinoshita S, Hino Y, Tsuchihashi Y : Clinicopathologic Study of Conjunctivochalasis. Cornea23(3)294-298, 2004