京都府立医科大学 眼科学教室

奥村 直毅先生

角膜

奥村 直毅の主たる研究成果と抱負

角膜内皮疾患に対する新しい治療法の開発を目指した研究を行っています。角膜内皮細胞とは、「くろめ」とよばれる角膜の内側にある細胞で角膜を透明に保つために欠かせない細胞です。角膜内皮細胞は基本的には人間の体の中では増えることができないために、角膜ジストロフィ、複数回の眼科手術後、外傷などの様々な原因によってひどく障害されると、角膜を透明に保つことができなくなり著しい視力障害を引き起こします。現在は、角膜内皮細胞が障害されて角膜が白く濁ってしまった場合には、角膜移植が広く行われています。しかし、角膜移植は優れた治療法である一方で、患者さんの負担もそれなりに大きく、世界的なドナー不足も問題となっております。

我々は従来の角膜移植に代わる治療法の開発を外科的、薬物学的の両方の視点から行っています。外科的な治療法としては、再生医療の手法により、生体外で培養した角膜内皮細胞を患者さんに移植するという新規の培養角膜内皮移植の開発を行っています。実際に、基礎研究、非臨床研究の成果を受けて、京都府立医科大学附属病院において世界初となる培養角膜内皮細胞を用いたFirst-in-human試験が実現化されました。現在、臨床研究が進行中ですが、企業との連携による治験を経た産業化に向けて開発を進めています。

また、薬物による角膜内皮障害治療法の開発を行っています。2009年にRhoキナーゼ阻害剤が角膜内皮細胞の細胞増殖、細胞接着を促進し、アポトーシスを抑制することを発見し、さらに、Rhoキナーゼ阻害剤を点眼薬として用いることで、生体内で角膜内皮細胞の増殖・創傷治癒を促進することを、動物を用いた研究で証明しました。これらの成果をもとに、角膜内皮不全患者を対象にRhoキナーゼ阻害剤点眼の臨床研究を実施し、特に早期の角膜内皮不全患者において有用であることを明らかになっています。薬物により角膜内皮不全を治療することは画期的であり、角膜内皮障害への薬物療法の可能性が示されました。現在製薬メーカーと共同で治験の開始に向けた準備を進めています。

角膜内皮障害が、角膜移植の代わりに目薬や再生医療により、安全かつ効果的に治療できる時代が実現するように努力を続けています。

  • 参考文献
  • http://researchmap.jp/okumura.n/
    https://www.researchgate.net/profile/Naoki_Okumura
    同志社大学生命科学部ティッシュエンジニアリング