京都府立医科大学 眼科学教室

緑内障

はじめに

 われわれ臨床家の行う研究は常に「はじめに患者ありき」ということを前提にする必要があります。すなわち、最終目標は患者さんの救済であり、学問的興味のためだけに研究を行うことは厳に慎むべきと考えます。また研究にあたっては対象に対して常に真摯な姿勢で望むことが重要です。生身の患者さんを対象とする臨床研究は、臨床に直結してすぐにフィードバックできる反面、患者さんに対する配慮がきわめて重要となります。

 一方、培養細胞や実験動物を対象とする基礎研究では、直接的には臨床に結びつかなくとも長い目で見れば必ず臨床的に意義があり、かつ社会的にも注目を集めるような研究を目指す必要があります。われわれはこのような基本方針のもとに、短期的な目標として現在の緑内障治療における問題点を把握し改善を図る研究を行うとともに、長期的には緑内障の根本原因を探り、進行あるいは発症を予防することを目指す研究を行っています。

緑内障グループにおける研究課題

    1. 現在の治療法の改善

     緑内障の治療には点眼・内服を主とした内科的療法とレーザーや手術を基本とした外科的療法があります。われわれは現在の緑内障治療における問題点を把握するために、コンピュータを導入した大規模な患者データ管理を行うとともに、HRT-II, GDxVCC, FD-OCT(トプコン社, RT-Vue社), Pentacam, Visante前眼部OCT、UBM, IOL master, Matrixなどの種々の非侵襲的検査法を駆使し、定期的に視神経乳頭・網膜神経線維層解析、前眼部隅角形状解析ならびに視野解析などの臨床データの蓄積を行い長期にわたる緑内障の経時的変化の追跡ならびに各種抗緑内障薬の客観的総合的な治療効果判定を行っています。また、各種抗緑内障薬の副作用としての角膜上皮への影響を検討し、症例ごとに最善の治療法を選択するための手がかりを得るべく努力しています。

     外科的療法の分野では、現在主流となっているマイトマイシンC併用線維柱帯切除術の限界が明らかとなってきたことから、房水流出路である隅角を直接操作する術式の開発を目指して新しい手術用隅角鏡(Mori upright surgical gonio lens, Ocular Instruments Inc.)ならびに隅角癒着解離スパーテルの開発を行っています。また、当科においては角膜移植、特に難治性眼表面疾患に対する眼表面再建術が盛んに行われており、これらの症例に緑内障が合併すると炎症を惹起しやすいことから緑内障としても難治となりやすいことが挙げられます。中でも特に難治である眼表面再建術後の緑内障に対して、われわれは新たに羊膜パッチ併用線維柱帯切除術を開発し、その臨床経過を詳細に検討しています。

    2. 緑内障の病因解明

     緑内障の成因には房水流出路として重要な役割を持つ線維柱帯細胞が深く関わっていることは明らかです。われわれは多数の遺伝子の発現変化を同時に調べることのできる Gene Chip を用いて、培養ヒト線維柱帯細胞に対して種々の薬剤を負荷した場合の遺伝子の発現変化を解析し、薬剤に対する線維柱帯細胞の反応を明らかにしています

     さらに手術時に得られたサンプルからシュレム氏管内皮細胞の培養系の確立をめざしており、緑内障症例における線維柱帯細胞とシュレム氏管内皮細胞の間の相互作用についても検討を行う予定です。

     このような一連の研究の中にはステロイド緑内障の成因の解明につながると考えられるステロイド負荷時の変化や、ぶどう膜強膜経路に作用することは分かっているものの主経路に対する影響については未知であるプロスタグランジン製剤負荷時の変化を見たものが含まれます。

     さらに今後は緑内障手術後やレーザー手術後、さらにはぶどう膜炎続発緑内障のような炎症状態での線維柱帯細胞の遺伝子の発現レベルの変化を調べ、それを抑えることが治療に結び付けられるような研究をめざしています。そしてこれらの研究から線維柱帯細胞の去就についての新しい知見が得られ、線維柱帯細胞に直接作用して房水流出抵抗を減弱させる薬剤や新しい手術術式の開発に結びつくと考えています。

    3.緑内障の遺伝子診断

     緑内障は単一遺伝子によるとは限らない多因子疾患といわれています。これまでの候補遺伝子アプローチで発見された緑内障発症原因遺伝子は必ずしも大多数の緑内障の原因遺伝子とは言えません。すなわち原因遺伝子検索のためには厳密な疾患背景を持つ臨床サンプルに対して行う全ゲノムアプローチが必要です。我々はゲノム情報を絡めた緑内障の発症・予後予測診断技術の開発を目的として京都府立医科大学ゲノム医化学教室と共同で広義原発開放隅角緑内障と健常者を含めた多数例に対して全ゲノムSNP(一塩基多型)解析による緑内障関連候補SNPを選別しました。これらのデータをもとに広義開放隅角緑内障診断チップを作成し、緑内障診断アルゴリズムの開発からゲノムによる緑内障スクリーニングを目指しています。

    研究

    1. 森 和彦の研究

    2. 池田 陽子の研究

    3. 上野 盛夫の研究

    4. 今井 浩二郎の研究